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東京高等裁判所 昭和55年(ラ)215号・昭55年(ラ)206号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二当裁判所の判断

1 第二〇六号事件について

抗告人は、横浜地方裁判所小田原支部執行官が本件仮処分の執行に際し、原決定別紙物件目録(二)記載の建物のうちその主屋と附属(2)(3)及び(5)の建物について、有限会社一伸工業に対する執行として同社の占有を解き執行官としたうえ同社にその使用を許したが抗告人に対する執行をしなかつたことは、前記建物についても抗告人を債務者としてその占有を解きかつこれに使用を許すべきものと命じた本件仮処分決定主文(三)に反する違法の措置であると主張する。

しかし、占有移転禁止の仮処分は当事者を恒定し目的物の現状を固定凍結することを目的とするもので、その執行に際しての債務者本人や目的物の確認、占有使用状態の認定などは執行官の調査判断に任せられていると解すべきであるから、本件のように、同一目的物件について数名の債務者に対する占有移転禁止の仮処分決定が発せられた場合においては、執行官は調査の結果目的物件を占有使用していると認定された債務者に対する執行を行えば足り、右以外の債務者に対する執行をなすことを要しない。そして、一件記録によれば、本件仮処分の執行に際し、執行官は債務者有限会社一伸工業代表者村井伸光及び抗告人から依頼を受けて原決定物件目録(二)記載の附属(1)の建物内を掃除していた債務者株式会社アイホームの元従業員白石トミ子を抗告人についての立会証人に依頼し、同人らの指示説明によつて前記(二)記載の建物のうち主屋と附属(2)(3)及び(5)の建物については債務者有限会社一伸工業の占有と認定し、同社に対する執行をなしたことを認めることができ、これらの建物を同社以外の債務者が占有していることを認めるに足りる証拠はないから、右執行官の執行につき違法の点を見出すことはできない。抗告人の主張は理由がなく採用することができない。

2 第二一五号事件について

(一) 抗告人は、仮処分の公示の誤りは執行官において職権又は当事者の申立によりこれを訂正すれば足り、民訴法五四四条の異議の対象とはならないから、原決定が本件異議申立に対し同別紙物件目録(一)記載の土地に対する執行における公示につき誤りがあるとしてこの公示の取消を命じたのは前記法条の解釈を誤つた違法があると主張する。

しかし、占有移転禁止仮処分の公示は、第三者保護の見地から執行官が仮処分の目的を達するため必要な処分として目的物件を執行官の保管として債務者らにその使用を許したことを公告するもので、明白になされなければ意味がないのであるから、もし、公示に誤りがあれば、執行官において職権又は当事者の申立によりこれを訂正することができるのであるが、一方、これにより不利益を受ける者においても、公示の内容を明白にすることを求めて、執行裁判所に対し民訴法五四四条の異議を申立てることができると解するのを相当とする。そして、一件記録によれば、前記目録(一)記載の土地に対する仮処分執行における公示につき誤りがあること、執行官において右誤りを訂正した事実のないこと及びこれにより債務者加北産業株式会社が不利益を受けることが認められるから、本件異議申立に対し右公示の取消を命じた原決定には違法の点はなく、抗告人の主張は理由がない。

(二) 抗告人は、民訴法五四四条の異議は、目的物件が異議申立人の占有であるというだけでは足りず、執行に際し異議申立人からその占有であることが主張されたのに、執行官がその主張を排斥して右申立人外の占有として執行した場合にのみ許されるべきであるのに、債務者加北産業株式会社から執行に際しその占有である旨の主張のない原決定別紙物件目録(二)記載の附属(1)の建物の二階部分についての債務者株式会社アイホームに対する執行を右加北産業株式会社の異議により取消した原決定は、前記法条の解釈を誤つた違法があると主張する。

しかし、本件のような不動産の占有に関する仮処分の執行において、目的物の占有が債務者にあるとの執行官の認定について、第三者においてなんらの異議もなくその執行を許容した場合には、その執行には手続上なんらの違法もないから、右第三者が自己の占有中にあることを理由として民訴法五四四条による異議を申立てることは許されないというべきであるが、右第三者が不在であるなど執行時において異議を述べることができなかつたと認められる事情がある場合には、本条による異議を申立てることが許されると解するのを相当とする。そして、一件記録によれば、本件執行に際し、債務者有限会社一伸工業代表者村井伸光及び債務者株式会社アイホームの元従業員白石トミ子が立会証人として立会つただけで債務者加北産業株式会社は立会わなかつたことが認められるから、右加北産業株式会社が同二階部分について自己の占有中にあることを理由として本条による異議を申立てることは適法である。従つて、原決定には抗告人主張の違法はない。

(吉岡進 手代木進 上杉晴一郎)

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